最高裁判所第一小法廷 昭和42年(オ)285号 判決 1968年6月27日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人村部芳太郎の上告理由について。
まず、所論第一点の一、二および三の前段は、所論(イ)(ロ)(ハ)および(ニ)の各弁済の充当についてした原審の判断は、法令の解釈適用を誤つている旨主張する。原判決によれば、原審は、上告人が、昭和二八年一二月四日被上告人両名を連帯債務者として同人らに対し金五〇万円を利息月三分、弁済期昭和二九年四月三〇日と定めて貸与したこと、被上告人らが上告人に対し、(イ)右約定の月三分の利息の弁済として(以下、(ロ)および(ハ)について同じ。)、昭和二八年一二月三一日に金一万五〇〇〇円、(ロ)昭和二九年三月三一日に金四万円、(ハ)同年六月一六日に金一万五〇〇〇円、(ニ)右約定の月三分の利息および元本の弁済として、同年一二月三一日に金二〇万円、(ホ)弁済充当の指定なく(以下同じ。)、昭和三〇年九月に金八万円、(ヘ)同年一二月に金一六万四〇〇〇円、(ト)昭和三一年一二月に金五万円、(チ)昭和三三年八月一三日に金二〇万円、(リ)同年一二月一四日に金一〇万円を、それぞれ支払つたことを確定したうえ本件消費貸借については利息制限法(明治一〇年太政官布告六六号、以下旧利息制限法という。)が適用されるところ、右各弁済の効果について、右(イ)(ロ)(ハ)および(ニ)は、被上告人山本義雄が旧利息制限法所定の制限を超過した利息に充当する意思表示のもとに任意に支払つたものであるけれども、かような場合でも、元本の存するかぎり、右超過部分は、民法四九一条により残存元本に充当されるものと解するのを相当とする旨の見解のもとに、結局、右(チ)の金二〇万円の支払をもつて本件借受金の利息および元本の弁済をすべて終了した旨判示している。
しかし、旧利息制限法のもとにおいては、債務者によつて利息として任意に支払われた金員が、同法所定の利率による金額を超えている場合であつても、超過分を元本の弁済に充当すべきでないことは、当裁判所の判例(昭和二八年(オ)第二九〇号同三〇年二月二二日第三小法廷判決民集九巻二号二〇九頁、昭和三七年(オ)第八五六号同三八年七月一一日第一小法廷判決裁判集民事六七号五三頁、昭和四一年(オ)第七三七号同年一二月六日第三小法廷判決参照)とするところであり、当裁判所昭和三五年(オ)第一一五一号同三九年一一月一八日大法廷判決(民集一八巻九号一八六八頁)は、利息制限法(昭和二九年法律一〇〇号)に関するものであり、これによつて旧利息制限法に関する右判例が変更されたものとはいえない。
つぎに、所論第一点の三の後段は、所論(ホ)(ヘ)(ト)(チ)および(リ)の各弁済は、そのつど上告人が右約定利息に充当し、いずれも当時被上告人らにおいて異議がなかつたものである旨主張するが、右は原審の認定しないところである。そして、当事者が弁済の充当をしないで支払をし、法律上の充当をすべき場合には、右支払つた分を約定利息のうちの旧利息制限法所定の利率を超える部分の弁済に充当することはできず、したがつて該部分は、元本の弁済に充当されるものというべきである。原判決に所論違法は認められない。
右のとおりであつて、前記(イ)(ロ)(ハ)および(ニ)の各弁済の充当について原審が示した右見解は誤りであるが、原審が確定した前記事実に基づいて、右(イ)(ロ)(ハ)の各弁済を約定の月三分の利息に充当し、右(ニ)の弁済は、まず、約定の月三分による利息に充当し、その残余を元本に充当し、右(ホ)(ヘ)(ト)(チ)および(リ)の各弁済は、それぞれ、まず、旧利息制限法所定の年一割の割合に引き直した利息に充当し、ついで、元本に充当すれば、右(リ)の支払をもつて本件借受金の利息および元本のすべてを弁済し、金七万四八六一円の過払となることは、算数上明らかであるから、上告人の本訴請求は理由がないことに帰するのであつて、上告人の控訴を棄却した原判決は、結局相当というべきである。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、三九六条、三八四条二項、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 長部謹吾 裁判官 松田二郎 裁判官 大隅健一郎)
裁判官入江俊郎は海外出張のため署名押印することができない。
(裁判長裁判官 長部謹吾)